「男の子らしく・女の子らしく」より「あなたらしく」。自己肯定感を育てる親子のジェンダー会話
子どもの「男の子なのに」「女の子でしょ」という言葉に、どう返せばいいのでしょう。叱って正すより、選択肢をひとつ足す。無条件の受容と行動への具体的なフィードバックを分けながら、子どもの自己肯定感を支える家庭での関わり方を紹介します。

「らしさ」の話は、自己肯定感の話でもある
「男の子なんだから泣かないの」「女の子はおしとやかにね」。
子育てのなかで、ついそんな言葉が出そうになって、あとから少し気になったことはありませんか。あるいは、子どもが「ピンクは女の子の色でしょ」「男の子がそれを好きなのは変」と言ったとき、どう返せばいいのか迷うこともあるかもしれません。
ジェンダーの話というと、難しい知識が必要なように感じます。でも家庭でまず大切にしたいのは、「正解を教え込むこと」ではなく、子どもが自分の好きなものや感じ方を安心して言える空気をつくることです。
これは、子どもの自己肯定感にも関わります。自己肯定感を育てるうえで大切なのは、「何が好きでも、どんな気持ちでも、あなたは大切な存在だよ」という土台を伝えること。そのうえで、相手を傷つける言い方や決めつけについては、行動として具体的に伝えていくことです。
この記事では、参考情報で紹介されている研究内容をもとに、親子で「らしさ」について考える会話のコツを、家庭で試しやすい形に整理します。
子どもの決めつけは「性格の問題」と決めつけなくていい
子どもが「男の子なのに変」「女の子はこうでしょ」と言うと、親はドキッとしますよね。「このまま偏った考えになったらどうしよう」と心配になることもあるでしょう。
けれど、参考情報で紹介されている研究では、子どもの性別についての決めつけは、発達の途中で一時的に強くなることが示されています。
研究で分かっていること
ヴッパータール大学のハンス・トラウトナー博士らによる、5歳から10歳までの子ども64人を毎年追跡した研究では、性別についての決めつけは5〜6歳ごろにもっともかたくなになり、その後、7〜8歳にかけて考えが柔らかくなっていくことが示されました。また、早く始まった子は早くやわらぐ傾向があったとされています。
編集部の解釈
子どもの「男の子はこう」「女の子はこう」という言葉は、必ずしも意地悪や性格の悪さから出ているとは限りません。まわりの世界から吸収した情報を、まだ整理しきれないまま言葉にしている場合があります。
だからこそ、頭ごなしに叱って「そんなことを言う子はダメ」と人格まで否定してしまうと、子どもは安心して考え直すことが難しくなります。大切なのは、子ども自身を受け止めながら、考え方の選択肢を少しずつ広げることです。
「無条件の受容」と「行動へのフィードバック」を分ける
自己肯定感を支える関わりでは、子どもの存在そのものへのメッセージと、行動へのフィードバックを分けて伝えることが大切です。
たとえば、子どもが「男の子がピンクなんて変」と言った場面を考えてみましょう。
無条件の受容:あなたの気持ちは聞くよ
まずは、子どもがそう思ったこと自体をすぐに否定しなくても大丈夫です。
- 「そう思ったんだね」
- 「どこでそう感じたのかな」
- 「ピンクは女の子の色って聞いたことがあるんだね」
このように返すと、子どもは「話を聞いてもらえた」と感じやすくなります。ここで伝えたいのは、「あなたが何を考えても、話していいよ」という安心感です。
行動への具体的なフィードバック:決めつける言い方は変えられる
一方で、相手を傷つけるような言い方や、誰かの好きなものを否定する言葉は、そのままにしなくてよい部分です。
- 「“変”って言われると、悲しくなる子もいるかもしれないね」
- 「ピンクが好きな男の子もいるよ」
- 「色は、人によって好きなものが違うね」
- 「次に言うなら、“ぼくは青が好き”みたいに、自分の好みとして言えるといいね」
ポイントは、「あなたは悪い子」と言わず、「その言い方は相手が悲しくなるかもしれない」「こう言い換えられるよ」と行動に焦点を当てることです。
子どもは、自分を否定されると守りに入りやすくなります。でも、言い方や行動を具体的に教えてもらえると、次にどうすればいいかが見えやすくなります。
叱るより、「そういう子もいるね」を足す
参考情報で紹介されている記事では、子どもの決めつけに対して、「ダメ」と打ち消すより、「こういう子もいるよ」と例をひとつ足す方法が提案されています。
たとえば、こんな言い方です。
- 「ピンクが好きな男の子もいるよ」
- 「電車が大好きな女の子もいるね」
- 「髪が長い男の子もいるし、短い女の子もいるね」
- 「おままごとが好きな子も、ブロックが好きな子もいるね」
研究で分かっていること
サリー大学のローレン・スピナー博士らによる研究では、イギリスで6〜10歳の子どもたちに、週1回30分ずつ4か月にわたって「ピンクが好きじゃない女の子もいる」といった、性別のなかの多様性を伝える授業を行いました。その結果、おもちゃや職業に対する決めつけがやわらぎ、性別をこえた見方ができるようになったと紹介されています。
ここで大切なのは、「みんな同じ」と教えるのではなく、「同じ性別のなかにも、いろいろな子がいる」と伝えた点です。
家庭での実践案
家庭では、特別な授業をする必要はありません。日常の会話のなかで、子どもの世界に新しい例をひとつ足していきます。
子どもが「女の子はプリンセスが好きなんだよ」と言ったら、
「プリンセスが好きな女の子もいるね。恐竜が好きな女の子もいるよ。どっちもその子の好きなものだね」
子どもが「男の子は泣かないんだよ」と言ったら、
「悲しいときは、男の子でも女の子でも涙が出ることがあるよ。泣くのは気持ちが動いたサインだね」
このように、「間違いを正す」というより、「見えていなかった例を紹介する」つもりで話すと、親も子も少し楽になります。
おもちゃや服は「男の子用・女の子用」より、特徴で伝える
大人の何気ないひとことも、子どもの選択に影響します。
研究で分かっていること
参考情報では、ウィスコンシン大学スティーブンスポイント校のエリカ・ワイスグラム博士らによる、就学前の子どもを対象にした研究が紹介されています。この研究では、おもちゃに「これは女の子用」「男の子用」というラベルをつけると、子どもはそのラベルに合わせて興味を持ったり避けたりすることが分かりました。色やラベルといった外側の手がかりが、子どもの「好き・きらい」を左右していたとされています。
家庭での実践案
おもちゃや服を選ぶときは、性別ではなく特徴を言葉にしてみましょう。
- 「これは組み立てるのが楽しそうだね」
- 「この服は動きやすそうだね」
- 「この色、明るい感じがするね」
- 「どれを使ってみたい?」
- 「あなたは前にこれを選んでいたね。今日はどうする?」
「男の子だからこっち」「女の子だからこっち」ではなく、「何が楽しそうか」「何を試したいか」に目を向けると、子どもは自分の感覚で選びやすくなります。
他の子と比べず、「前のその子」からの成長を見る
自己肯定感を育てたいと思うと、つい「お友だちはできているのに」「きょうだいはもっと柔軟に考えられるのに」と比べたくなることがあります。
でも、ジェンダーについての考え方の柔らかさにも個人差があります。参考情報で紹介されている研究でも、決めつけが強くなる時期ややわらぐ時期には発達の流れがあるとされていますが、家庭で一人ひとりの子どもに向き合うときは、「何歳だから必ずこう」と決めつけすぎないことが大切です。
比べるなら、他の子ではなく「少し前のわが子」と比べてみましょう。
- 「前は“絶対に男の子だけ”って言っていたけれど、今日は“そういう子もいるかも”って言えたね」
- 「この前より、相手の気持ちを考えて言い直せたね」
- 「今日はすぐには納得できなかったけれど、“どうしてかな”って考えようとしていたね」
- 「前より、自分の好きなものを自分の言葉で選べたね」
ここでも、ほめる対象は「性格」より「行動」や「変化」にします。
「えらい子だね」だけで終わらせるより、「相手が悲しくならない言い方を考えたね」「自分で選べたね」と具体的に伝えるほうが、子どもは何がよかったのか分かりやすくなります。
自己肯定感を高めるために、親ができる言葉の置きかえ
「らしさ」の枠をゆるめることは、子どもが自分の好きなものや感じ方を大切にする助けになります。
家庭で試しやすい置きかえを、いくつか紹介します。
1. 性別で励ますより、気持ちに名前をつける
- 「男の子なんだから泣かない」
- 「女の子なんだから我慢しなさい」
と言いたくなったら、
- 「悔しかったんだね」
- 「びっくりしたんだね」
- 「悲しい気持ちが出てきたんだね」
と、まず気持ちを言葉にしてみます。
気持ちを受け止めることと、行動をそのまま許すことは別です。たとえば、怒って物を投げた場合は、「怒ったんだね」と気持ちを受け止めたうえで、「でも物を投げると危ないから、投げない方法にしよう」と伝えます。
2. 「みんなと同じ」より、「あなたはどうしたい?」を聞く
服や遊び、持ち物を選ぶとき、子どもがまわりを気にして迷うことがあります。
そんなときは、
- 「みんなが選ぶものにしなさい」
ではなく、
- 「あなたはどれが好き?」
- 「使うときにうれしいのはどれ?」
- 「今日は試してみたいものがある?」
と聞いてみます。
子どもが自分で選ぶ経験は、「自分の感じ方を大切にしていい」という感覚につながります。ただし、家庭の予算や園・学校の決まり、安全面などがある場合は、選べる範囲を大人が整えてかまいません。
3. 親自身も「気づいたら直す」でいい
親も、これまでの生活のなかで「男の子らしさ」「女の子らしさ」の枠を自然に身につけています。だから、つい言葉が出てしまうことはあります。
大切なのは、完璧な親になることではありません。
「あ、いま性別で決めつけて言ったかも」と気づいたら、あとから言い直して大丈夫です。
- 「さっき“男の子なのに”って言ったけど、言い方を変えるね」
- 「本当は、“危ないから気をつけてほしい”って伝えたかったんだ」
- 「好きな色は人それぞれだったね」
親が言い直す姿は、子どもにとって「間違えても直せる」「考えは変えていい」という学びにもなります。
個人差を大切に。無理をしない判断基準
ジェンダーの話は、親子で一度話せば終わりというものではありません。子どもの年齢、性格、関心、その日の疲れ具合によって、受け止め方は変わります。
無理をしないために、次のようなサインを見てみましょう。
- 子どもが強く反発して、会話が続かない
- 疲れていて、考える余裕がなさそう
- からかわれた経験などがあり、話題にするとつらそう
- 親のほうが焦って、説得したくなっている
こんなときは、その場で全部話そうとしなくて大丈夫です。
「また今度、一緒に考えようね」といったん終えて、絵本を読んだり、日常の別の場面で「そういう子もいるね」と足したりするくらいで十分です。
反対に、子どもが「どうして?」「ほかにもいるの?」と興味を示したときは、会話を広げるよいタイミングです。親がすべて説明できなくても、「一緒に考えてみよう」でかまいません。
今日からできる小さな一歩
今日、子どもが性別についての決めつけを口にしたら、まずは深呼吸してみてください。
そして、次の順番を思い出してみましょう。
- 「そう思ったんだね」と、子どもの話を受け止める
- 「でも、こういう子もいるよ」と、例をひとつ足す
- 相手を傷つける言い方があれば、行動として具体的に伝える
- 他の子と比べず、前のわが子からの小さな変化を認める
「らしさ」は、いつのまにか身につくものです。だからこそ、親子で「本当にそうかな」「ほかにはどんな子がいるかな」と考える時間に意味があります。
子どもに伝えたいのは、「どんな好きも、どんな気持ちも、あなたの大切な一部だよ」ということ。そして同時に、「自分の好きと同じように、ほかの人の好きも大切にしようね」ということです。
完璧に話せなくても大丈夫。今日できるいちばん近い一歩は、決めつけの言葉に、やさしく例をひとつ足すことです。
